ベテランエンジニア達から学んだこと

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「またご一緒しましょう」

関東甲信地方で平成最後の梅雨明けをした日。
約一年半、お手伝いをしてくれていたベテランエンジニアが職場から卒業をした。

技術の根底にある人柄

シャイで目立つのを好まず、縁の下の力持ち。
冷静に判断し、根気よく課題に向き合う。
過剰な実装は嫌い、程よく拡張性を残す。
自分の得意分野でも意欲にあふれる若手が居れば任せる。
チームメンバーの強みを活かす。
ビールが大好きで、飲み会ではひたすらビールを飲みながらみんなの話を笑って聞いてくれる。

「皆様も、ぜひ、お元気でご活躍されることをお祈りしております。ありがとうございました。」

彼はそう言って卒業していった。

そんなベテランエンジニアだった。

エンジニアとは

Wikipediaによると、エンジニアとは技術者である。

技術者(ぎじゅつしゃ、英語: engineer、エンジニア)とは、工学(エンジニアリング)に関する専門的な才能や技術を持った実践者のことである。

”工学に関する専門的な才能や技術を持った実践者”とは言い得て妙だな、と。

能ある鷹は爪を隠すという諺があるが、エンジニアという定義においては”実践者”である必要がある。
才能を隠すことはあっても、才能を使わない事はない。
そういう事かもしれない。

”目的を果たすため、備えている才能や技術を十分に、そして適切に使い分ける。”

エンジニアを私なりに表現するとこんな感じだ。
日本における”職人”みたいなものが表現出来ているのではないだろうか。

ベテラン

幼い頃、下町の職人だった父親の後ろ姿を彼の職場で見ていた。


軍手をした手に工具を持ち、黙って大きなプレス機械と向き合う。
加工品をじーっと見つめ、停止ボタンを押して機械を止める。
工具で2、3度「コンコン」と優しく機械を調整し、安全ボタンと運転ボタンを同時に押して機械を動かす。
そしてまた、黙って大きなプレス機械の前に立つ。

彼は金属プレス加工業を生業としていた。

自営業を営んでいた私の祖父から引き継ぎ、独学で技術を学んだ。
金属について学び、物理を学び、経営も学んだ。

多趣味な人で、野球や書道、陶芸、競馬、旅行、インターネット、ビールが好きだった。
数少ない弱点の1つは、高所恐怖症という事だった。
飛行機に乗る旅行は片手で数える程度だった。

私が札幌で5年程働いていた間、彼は一度も来札しなかった。
あんなに溺愛していた孫が生まれた時も、その姿を見に来る事はなかったのだから、本当に飛行機が嫌だったんだろう。

私が彼と家で話した記憶の中に、仕事の話は1つもない。
会話はそれなりにあった。
読売ジャイアンツの事、ドジャースの野茂の話、NYヤンキースで活躍する松井の事、シアトル・マリナーズのイチローについて。
野球ばっかりじゃねぇか、と今になって気付く。

職場へ遊びに行った時、一緒にコンビニ弁当をプレス機械の前でパイプ椅子に座りながら食べる時間が一番好きだった。

新しい機械の仕組み。
日本で彼しか加工できない製品の話。
材質の配合で製品の熱耐性が強くなる理由。
製品にバリを出さない為の圧縮速度。
一番効率の良いオペレーション。

そういう話をしてくれるのは、お昼を一緒に食べて彼がタバコを吸いに行くまでの数分だけだった。


もう一度でも、彼から仕事の話を聞いていたら私は彼の仕事を継いでいただろう。

今はもう、彼が機械の前に立つ後ろ姿を見る事も出来ない。

育てる事と育てられる事

教育や指導、育成はとても大切だ。

”エンジニア不足”の状況において、正しく、より良いエンジニアを育てる事は重要な事だろう。
コンピュータサイエンスの義務教育化も見えている。コンピュータやインターネットを知っている・扱える事が当たり前の時代がやってくる。
特にITエンジニア・Webエンジニアにおいては、ベース知識のレベルがグッとあがった人材へ、教育・指導・育成をしていく必要がある。

学習し成長する事も大切だろう。

年齢や立場、役職に関係なく私達エンジニアは、学習し成長する事が出来る。
足らないと感じた事、深く知りたいと興味をもった事、眼の前の課題を乗り越える為に習得しなくてはいけない事。
時間と情熱は誰にでも平等であって欲しい。

そうして習得した才能や技術を十分に、そして適切に使い分け、目的を果たしていく。

才能や技術は隠すものじゃない。
才能を使い、使われる技術を駆使して、世の中をより良くしていくべきだ。

実践者

コンピュータとテクノロジーを特別なものとしない時代になって、私たちエンジニアには何が求められるのだろうか。

それは実践者であり続ける事でないだろうか。
実践し続ける事ではないだろうか。
夏が始まった日に卒業していったベテランエンジニアも、父親もそうだったように。

夏の最初の日。
今日は暑い。
ビールで乾杯だ。